ブログ-たび

2020年12月8日、リヨンの伝統行事『光の祭典』

2020年12月8日、リヨンの伝統行事『光の祭典』

2020年12月8日、リヨンの伝統行事『光の祭典』
窓辺に灯したロウソクの光で包まれたリヨンの町

2020年12月8日はリヨン人にとって特別の日。毎年、最先端のプロジェクションマッピングとイルミネーション技術を結集させた世界最大級の光のイベント、リヨン『光の祭典』が開催される日である。2019年は、大規模なストライキが行われていたなか、それでも4日間で180万人がリヨンを訪問した。今年は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、リヨン市が苦渋の決断でイベント中止を決定。そういえば、過去に一度、パリ同時多発テロ事件が発生した2015年もリヨンの光の祭典が中止となったのは記憶に新しい。

1643年のこと。南フランスからペストが蔓延しリヨンへと近づいてくる。リヨンの人々はペストの脅威から救いの祈りをフルヴィエールの丘の聖マリアへ捧げ続けた。想像してみよう。顕微鏡技術のない当時、目に見えない敵が迫ってくる恐怖を。歴史が語るように聖マリアは微笑んだ。リヨン人の祈りが天に届いたのか、ペストはリヨンを襲うことなく終息していく。それから毎年、リヨンの人々は聖マリアへの感謝の気持ちを込めて、聖マリアの誕生の日にあたる9月8日に、リヨンのサン・ジャン大聖堂からフルヴィエールの丘の聖マリア像が祀られた礼拝堂(サン・トーマ礼拝堂)まで巡礼行列を行い、聖マリア像の前に伏せ、大きなローソクと金貨1枚を献納するという儀式を始めた。これがのリヨンの伝統行事の始まりである。

200年後の1850年、フルヴィエールの丘の礼拝堂の鐘塔の上にマリア像を設置することが決まった。2年の制作期間を終えて、高さ5.6m、重さ3tの聖マリア像が完成した。そして、1852年9月8日、礼拝堂の鐘塔からリヨンを見下ろす聖マリア像の完成式典が予定された。当日、なんとソーヌ川が増水するほどの悪天候に見舞われ、式典を行うことは不可能となり、そこで、聖マリアの「無原罪の御宿り」を祝う12月8日に延期することになった。待ちに待った1852年12月8日の朝、今度は雷を伴う大雨がリヨンを襲う。二度あることは三度ある。リヨン市は仕方なく翌週の日曜日に延期しようと話し合っていたところ、リヨンの住民は「3か月も待たされたんだ。これ以上は待てないよ」ということで、式典の準備を始めたのだ。フルヴィエールの丘から花火をあげて、ファンファーレを奏でるという大規模なイベントが予定されていた。すると、次第に雲が晴れてゆき、リヨンの人々は空を見上げて喜びに溢れ、誰とはなしに窓辺にローソクを灯しはじめた。そして、窓越しから賛美歌を歌い、「マリア様万歳!」と叫んだ。祝典は夜中まで続いたという。リヨンでは、フランス王がリヨンを訪問した日や戦勝記念日といった重要な行事がある日には、窓辺にローソクを灯すことが伝統だった。こうして12月8日は窓辺にローソクを灯すことが慣習となり、それが今日まで続いている。

ローソクは「リュミニョン(lumignon)」あるいは「ランピオン(lampion)」と呼ばれ、カップケーキの形をしている。それを彩色されたグラスに入れて窓辺に飾る。

 

1989年、リヨン市が12月8日の伝統行事の日にリヨンの歴史的建造物をライトアップした。これが大好評で、1999年からは12月8日をはさんだ4日間をリヨンの『光の祭典』と称して、照射技術者による大規模なイルミネーションが行われるようになった。2005年からはフランス国内のみならず、世界各地からコンペに勝ち抜いたプロジェクションマッピングやイルミネーションのアーティストによる光のショーが繰り広げられ、2010年には300万人、2012年は400万人がリヨンを訪問するという世界有数のイベントに発展していった。

今年は残念ながら、新型コロナウイルスのパンデミックにより華やかなイベントは中止となった。リヨン市は「イベントが中止となってしまったが、だからこそ、数世紀にわたる伝統に忠実に、窓辺にローソクを灯して、リヨンを輝かせよう」と住民に訴え、2020年12月8日、ウイルスと日々闘う医療従事者の方々への感謝と連帯感を表現するために、2万個のローソクで飾られたフレスコ画を実現させた。人が集まってくることを避けるため、場所は未公開となったが、その様子を地方テレビ局France 3が放映していた。

フランス政府はロックダウンを解除していないが、1日に20キロメートル圏内で3時間までの散歩が許されている。2020年12月8日、私も仕事帰りにリヨン市内を歩いてみた。そして、ソーヌ川沿いからフルヴィエールの丘を見上げたとき、1643年のペストと2020年のコロナウイルスの歴史が交差した。ローマの歴史家クルチュウス・ルーフスの言葉で哲学者カール・マルクスが引用した「歴史は繰り返す」が頭をよぎった。ウイルスは必ず終息する。ペストが終息したように。

 

  

 

文・写真:マダムユキ(著作権保護から無断複写・複製は禁じられています)

 

 

印刷   メール

エクランドゥフランス - ECRINS DE FRANCE - は、フランス全土で旅行をお手配する日系の現地旅行会社です。パリ、リヨン、ストラスブール、トゥールーズ、ボルドー、ニースなどの主要都市を中心に周遊ツアーを催行してます。

 

ニュースレター

フランス旅行に関する最新情報やお役立ち情報などをニュースレターで配信しております。ご希望の方はメールアドレスをご登録ください。登録の解除はいつでも可能です。