『男と女』のロケ地、ドーヴィル海岸の遊歩道を歩く
海辺の高級リゾート地ドーヴィルの海岸を歩いた
※当記事は『地球の歩き方リヨン特派員ブログ』から転載したものです
ドーヴィル観光局のステファンさんのお誘いで、リヨンからパリを経由してイギリス海峡の海辺の町ドーヴィルへやってきた。
ドーヴィル観光局のステファンさんとの再会
さて、待ちに待ったステファンさんとの再会の日。ホテルのフロントで待ち合わせをしていた。予定より少し早めに待機していたら、ステファンさんが笑顔で登場。ステファンさんとこんな会話を交わした。
マダムユキ:ステファンさん、お久しぶり。全然変わってないね。元気だった?ドーヴィルに誘ってくれてありがとう。こうして対面で会うのは2年ぶりね。ところで、ウイルス感染の広がりで、観光・旅行業は苦境にあるけど、ドーヴィルはどんな感じなの?
ステファン:わざわざ、来てくれてありがとう。今回は約束を守ってくれて嬉しいよ!ところで、ホテルの場所はすぐにわかっただろう?このホテルだけど、オープン後にコロナ禍だから、結構、大変だと思うよ。ぼくは外出制限が発令されてからテレワークが中心で、観光局に顔を出すのは週に1回程度かな。観光客からの問い合わせもほとんどないし、町は閑散としているし。といっても、ドーヴィルが賑わうのは4月以降だから、これから忙しくなると思う。そうなってほしいと願ってる。リヨンは大きな町だから、ドーヴィルよりも感染拡大が深刻なんじゃない?心配していたよ。
マダムユキ:あ~、元気でよかった!リヨンは検査陽性率が上昇しているってメディアが取り上げているけど、私はあいかわらずかな。外出制限下でも毎日オフィスで仕事をしているのよ。さすがに公共交通機関の利用は避けて、30分の徒歩通勤を始めたの。交通費を節約できると思っていたけど、実は、靴が傷むのが早いのよね。靴の修理代がかさむからどっちもどっちかな。
ステファン:へえ、まさか、今日、ヒールの靴?ああ、違うよね。よかった!これから海岸まで15分ほど歩いて、そのあと競馬場にもいくよ。そうそう、ぼくはドーヴィルとカンの間あたりに住んでいて、ドーヴィル観光局まで車で30分だから、さすがに徒歩通勤はできない。静かな村の一軒家に住んでいるんだ。
マダムユキ:いいなあ、外出制限の勝ち組だね。
ステファン:そうだね。テレワークも慣れれば悪くない。今までだってコミュニケーション手段はメールが中心だったから、どこにいても仕事はできるんだよ。そのことに気づかされたって感じかな。
マダムユキ:私はアパルトマン暮らしだから、そうはいかないのよ。ずっと家にいたら窒息してしまう。家から離れることで息抜きができるし。こうして人と実際に会うことは大切だと思わない?
ステファン:もちろんだよ。だから、ドーヴィルに誘ったんだ。これから海辺に建つヴィラを見学しよう。VIPなお客様にぴったりだよ。そこでランチだ!
と、ステファンさんがいつもの愛らしい笑顔を見せるものだから、とても嬉しくなった。ドーヴィルプチ旅行にきてよかった!
そんな会話をしていたところに、リヨンからローランさんとファニィさん、パリからティエリさんとダリアさんがフロントにやってきた。みんな旅行会社で働いている長年来の顔見知りだ。
「あれ、マダムユキ、久しぶりだね、こんなところで会うなんて。仕事はどう?」と、ローランさん。ローランさんはリヨンでワインツアーを専門とする旅行会社を経営していて、ワイナリーでばったり会うこともしばしば。「体は元気だけど、仕事は病んでいるわよ。」と答えると、そこに、ウクライナ出身でカンヌで旅行会社を経営しているイェウヘンさんがニコニコしながら登場。彼とは4年前にトゥールーズで会った以来だから感動の再開…のはずだったのだが、「イェウヘンさん、久しぶり。全然変わってないね。元気そうでよかった。ドーヴィルで再会なんて、ちょっとびっくりよ。フランスを縦断してきたのね」と声をかけると、「外出制限のせいで少し太ったよ。マダムユキは元気そうだね。安心したよ。そういえば、この前、カンヌに遊びに来るって約束したのに、音沙汰なしだったね。まあ、こんな機会に会えたからよかったけど」と、皮肉られてしまった…。「ごめんごめん、光陰矢の如し…」、心の中で「フランス語でなんていえばいいんだっけ?」と自問自答していると、ステファンさんが「ヴィラに行くよ。オニヴァ(On y va)」と号令をかけたので、先生の後についていく児童のように、みんな、ぞろぞろと歩きだした。
ドーヴィル港の前に建つヴィラでプライベートランチ
ドーヴィルのヨットハーバーを眺めながら歩き進むと、海岸が遠目に見える少し開けた土地に木組みの家が建っていた。景観を妨げるものがなく、贅沢なロケーションだ
門を抜けて、手入れの行き届いた庭を通り、玄関口へ。まるでセカンドハウスのオーナーになった気分!
扉を開けて、「お邪魔します」と小さくつぶやき、ヴィラのなかに入ろうとした瞬間、ワクワク感で胸が高鳴り始めた。これが旅の醍醐味というものだ。発見の喜び…。
ヴィラに案内され、みんな口を揃えて「おしゃれだね」を連発した。
リビングに大きな窓が配され、天井は2階までの吹き抜けで、2階の寝室からリビングが見下ろせるという遊び心のある設計だった。控え目な調度品と機能性を重視したインテリアで、バカンスのロングステイでもくつろげるようにと居心地のよい空間づくりがされている。
リビングとキッチンはオープンスペースで連結し、窓から差し込む自然光がキッチンに優しい雰囲気を漂わせ、料理下手の私でさえも、「おいしい料理で人をもてなしたい」という料理心がそそられるから、インテリアデザインって大切だとつくづく思う。
ステファンさんがヴィラの間取りを説明してくれた。
床面積が200m²、1階(フランス式地階)にリビングとキッチンと寝室が2部屋。2階に寝室が3部屋あって、それぞれの寝室に浴室(一部はバスタブ付き)とトイレが設置されてる。プライベート空間がしっかり守られる設計だ。
ステファンさんが説明を終えて、「さあ、ランチにしよう」といって、ドーヴィルのレストラン「La Flambée」から届いたランチボックスをテーブルに並べると、みんなの顔がほころぶ。
ヴィラの貸切料金の目安だが、オフシーズンの1月~3月で1泊600ユーロ~、ハイシーズンの7月~9月では1泊825ユーロ~、ロングステイだと1週間あたり2000ユーロ~、1ヵ月あたり6000ユーロ~。家族連れや友達同士、企業のセミナーやパーティ利用に最適だ。ドーヴィルのヴィラを1棟貸切とは、なんとも贅沢に思えるが、人数が多ければ、高級ホテルよりリーズナブルだ!
みんなそれぞれ「こんなステキなヴィラでバカンスを過ごしたいなあ~」とつぶやきながら、新鮮な魚料理を白ワインと味わった。
■VILLA LE PHARE
・住所:1 rue Mirabeau Prolongée – 14800 Deauville France
・電話:+33-2-3114-0202
・部屋数:5寝室(浴室付き)、リビング、キッチンダイニング
・サービス:WiFi無料、ペット可、シーツの用意あり
セレブが通ったドーヴィルのカジノ
ヴィラ見学後は、海辺に向かった。目指すは、フランス映画の金字塔として知られるクロード・ルルーシュ監督の映画『男と女』の舞台で、ドーヴィルで最も有名な観光スポットとされる海岸沿いの遊歩道「レ・プランシュ(Les Planches)」だ。アヌーク・エメとジャン・ルイ・トランティニャンが歩いたドーヴィルの砂浜へと向かう足取りは軽い。
空を見上げれば、雲が流れて、澄んだ青色に輝いていた。
海岸に沿って走るウジェーヌ・コルニュシェ通り(Boulevard Eugène Cornuché)を進み、ドーヴィルのカジノへ。通りの名前となったウジェーヌ・コルニュシェはドーヴィル開発の重鎮。ウジェーヌ・コルニュシェはパリ8区のマドレーヌ地区にある有名なレストラン「マキシム」創業者であり、ドーヴィルとトゥールヴィルの2つのカジノの創立者だ。
1912年創業のドーヴィルのカジノ前で写真撮影。
ドーヴィルのカジノは古典主義の建築様式で建設されたが、1988年にバロック様式に改装された。現在はリュシアン・バリエールグループが所有している。
ドーヴィルのカジノで有名な逸話といえば、作家フランソワーズ・サガンにまつわる話だが、ご存知だろうか。1954年に発表された『悲しみよ、こんにちは』で人気作家となったサガンが、ドーヴィルのカジノでなんと800万フラン(およそ9億7000万円)を勝ち取った。1958年8月8日のことだ。サガンがカジノから大金を受け取って車に乗り込み、オンフルール近くに借りていた家に戻ったのが朝の8時過ぎ。その日はちょうど家を明け渡さなけれならない日だったらしく、家主が鍵を受け取りにやってきたという。徹夜のカジノで疲れ果てていたサガンは、カバンから現金800万フランを取り出して、「これでこの家を買うから、このまま休ませてちょうだい」と言った。家主は即OKを出して、売買取引が成立した。サガン23歳の時のこと。
■CASINO BARRIERE DEAUVILLE
・住所:2 rue Edmond Blanc – 14800 Deauville France
・電話:+33-2-3114-3114
・URL:https://www.casinosbarriere.com/fr/deauville.html
レ・プランシュを歩いて感無量
ウジェーヌ・コルニュシェ通りからリュシアン・バリエール通りに入ると、彼方に海岸が見える。
建築家シャルル・アッダのプレートが飾られてい。レ・プランシュ(板張りの遊歩道)とポンペイの公衆浴場からインスピレーションを得た更衣室を設計した人だ。
クロード・ルルーシュ監督が1966年に『男と女』のロケをこの地で行ったこと、カンヌ映画祭のパルムドール(最高賞)受賞、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞を受賞したことを記念するプレートも飾られていた。
ついにやって来た。長年の願いが叶った。これがレ・プランシュだ!
海辺に沿って幅7mの板張りの遊歩道が656mにもわたって続いている。使用されている木はカメルーンを中心とする西アフリカに群生するボンゴシ(あるいはアソベ)と呼ばれる樹木だ。
遊歩道にそって更衣室の小屋(キャビン)が設置され、それぞれの小屋にはドーヴィルで開催されるアメリカ映画祭に出席した映画スターの名前が付けられている。公共の更衣室なので、一般人でも予約すれば利用が可能だ。
カンヌに住んでいるイェウヘンさんに、「まじまじと眺めているけど、そんなに海が好きなの?」と訊かれて、「海のない町で生まれて、今も海のない町で生きている私には、海って謎なの」と答えると、「へ~」って不思議そうな顔をされた。「地中海とイギリス海峡は雰囲気が違うでしょう。イェウヘンさんどっちが好き?」と尋ねると、「確かに、ノルマンディの海にはコートダジュールの華やかさはないけど神秘的だね。海=浪漫=バカンス、どこの海も好きだよ。ウクライナにも海があるけど、黒海は有名だよね。アゾフ海の西岸に広がる腐海を知っている?深紅に染まるんだ。一見の価値ありだよ。海はみんなのもので、みんなに愛されるもの」って、心温まる返事が返ってきた。
新型コロナウイルス感染対策で飲食店が閉鎖されており、人通りも少なく、また、オフシーズンということでカラフルなビーチパラソルはみられなかったが、19世紀から20世紀、優雅なドレスをまとったブルジョワの女性たちがこの遊歩道を歩いていた時代を想像しながら、念願のイギリス海峡をドーヴィルの地から心ゆくまで眺め続けた。海から吹き込む風が冷たく強かったが、気持ちのよい時間を過ごすことができた。
次回は、「そうだ、馬が好きならドーヴィルへ行こう」。お楽しみに。
マダムユキより
文・写真:マダムユキ(著作権保護により無断複写・複製は禁じられています)