美術館・博物館

リヨン美術館

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リヨン美術館

Musée des Beaux-Arts


所在地 : 20 place des Terreaux - 69001 Lyon France
開館時間 : 10時~18時(金曜日1030分~18時)、最終入館時間1730
休館日 : 火曜日、フランスの祝日、1224日、1231
入館料 : 常設展8€、企画展12€、オーディオガイド1
公式サイト :
https://www.mba-lyon.fr
最寄り駅 : 地下鉄A線 オテルドヴィル(HOTEL DE VILLE

今日、世界各地におよそ55000軒の美術館や博物館が存在するが、やはり世界を代表する美術館であるルーヴル美術館、エルミタージュ美術館、プラド美術館、メトロポリタン美術館などは、一生に一度は訪れたいと夢見る憧れの場所であろう。美術史に刻まれる著名な画家の作品を目の前にする感動と興奮は、心の奥深くに刻まれて忘れることはない。世界各地から「よくもここまで蒐集したなあ」と感心するほどの所蔵品の数々、それらが一堂に会して展示されるさまは、一種の畏怖の念を覚えるほど。人間はいつからモノを蒐集し、展示し、鑑賞するという、モノを「見せる」あるいは「見る」という行為を楽しむようになったのか。

 

美術館とは、その名が語るように、美術品を収集・保存・展示する施設だが、英語でアートミュージアム(Art museum)、フランス語でミュゼダール(Musée d'Arts)と呼ばれるように、博物館(つまりミュージアム)の一種に位置づけられている。

「ミュージアム」という言葉は、ギリシャ文化とオリエント文化が融合するヘレニズム時代(紀元前300年から紀元前30年頃まで)に生まれた古代ギリシャ神話に登場する学術・学芸の女神「ムーサイ」を祀る神殿「ムセイオン(Musaeum)」に由来するという。

プトレマイオス朝エジプトのアレクサンドリアに建設されたムセイオンはたいへん有名だ。王の財力を投じて、図書館・実験室・解剖室・天文台などのあらゆる研究施設を備えた王立研究所であり、ヘレニズム文化の「知の殿堂」として世界に名を広めたことは周知のとおり。

古代ローマ帝国の衰退とともに、ムセイオンは姿を消すが、ルネサンス期に、芸術品や世界の珍品を所蔵する施設の名として復活する。ルネサンス(14世紀から16世紀)とは、日本では「文芸復興」と訳され、古典古代(ギリシャ、ローマ)の文化を復興させようとするイタリア発祥の文化運動だ。ルネサンス期から、古代ギリシャの「知のアーカイブ」の役割を担っていた「ムセイオン」が、王侯貴族や教会などの富裕層が世界各地から集めた名画や珍品の収集・展示の場を示す言葉として引用されるようになり、こうして時を経て、現在の「ミュージアム」へつながるのだから、言葉の歴史を辿ってみるのも、なかなかおもしろいものがある。

 

リヨンには、地方の美術館としては規模が大きく、ヨーロッパ有数の所蔵品を誇る美術館がある。

リヨンのプレスキル(ローヌ川とソーヌ川にはさまれた中洲)の北にテロー広場(Place des Terreaux)と呼ばれる、長方形の美しい広場がある。その広場に面して、17世紀にアヴィニヨン出身のふたりの建築家、ロワイエ・ド・ラ・ヴァルフェニエール兄弟フランソワとポール(François et Paul Royers de la Valfenière)が設計したベネディクト会派のサン・ピエール女子王立大修道院(abbaye royal des Dames de Sant-Pierre)が建っている。荘厳な正面ファサードの建物で、19世紀に美術館として改装され、一般公開されたのが始まりだ。まずは簡単に、リヨン美術館の歴史を振り返ってみよう。

 

18世紀、フランス革命で王室、貴族、聖職者などから没収した美術品を一か所に集め、広く一般の人に公開しようという動きがあった。リヨンも同様に、フランス革命直後の1791年、画家フィリップ=オーギュスト・エンヌカン(Philippe-Auguste Hennequin)とジョセフ・ジャナン神父(Père Joseph Janin)がフランス革命で没収された絵画の目録作成を任命され、およそ300作品が記録された。この作品を展示する場所として、1795516日のアレテ(政令)で、リヨン美術館とその付設施設として美術学校の設立が定められ、美術館は、フランス革命後に国有化されたサン・ピエール女子王立大修道院の建物のなかに設置することが決定されたのだ。さらに、1801年、内務大臣だったジャン=アントワンヌ・シャプタル(Jean Antoine Chaptal)がフランスの地方15都市に絵画コレクションを設けることを決定し、リヨンがリストのトップに挙げられ、ルーヴル美術館から1803年に29作品、1805年に14作品、1811年にフランス、イタリア、スペイン、フランドル、オランダの画家による50作品が寄贈されたのだ。そのなかには、リヨン美術館の主要作品となる、ル・ブラン(Le Brun)、シャンペーニュ(Champaigne)、ティントレット(Tintoret)、ヴェロネーズ(Véronèse)、コルトーナ(Cortone)、ルーベンス(Rubens)、ヨルダーンス(Jordaens)、ヘーム(Heem)などが含まれていた。そうそうたる顔ぶれである。これがリヨン美術館のコレクションの基盤となった。

 

19世紀、絹織物の町として発展したリヨンであるが、商工業みならず、文化事業にも力を注ぎ、リヨン美術館をルーヴル美術館に次ぐ、フランス第二の美術館にするという政策がしかれ、所蔵作品の充実に努めた。

 

そもそもリヨンは絹織物のモチーフにつかわれる花のデッサン画が多く描かれていたこともあり、芸術活動が盛んであった。19世紀前半、ポール・シュナヴァール(Paul Chenavard)を中心にリヨン出身の画家たちが哲学的・宗教的な絵を描くようになり、のちにリヨン派(Ecole lyonnaise)と呼ばれる。リヨン美術館はリヨンゆかりの画家たちの作品を蒐集し、個性的なコレクションを築いた。

 

19世紀後半、ギロティエール市長だったジャック・ベルナールがリヨン市に絵画300作品を寄贈した。リヨン美術館では、1876年に東の翼館を改装し、ジャック・ベルナール美術館(Musée Jacques Bernard)として作品を一般公開した。

 

リヨン美術館のコレクションが拡大していくなかで、展示環境を整備するために美術館建物の大規模な改装工事が行われることになった。それを機に、南の翼館にパリのパンテオンの内装を担当したリヨン出身のシュナヴァールのデッサン画を展示し、大階段には、同じくリヨン出身の象徴主義画家ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(Pierre Puvis de Chavannes)が、大壁画『芸術とミューズにとって愛しい聖なる森(Le Bois sacré cher aux arts et aux muses)』を手掛けた。

 

 

20世紀に入り、リヨン市の美術館が編成される。1914年に自然史博物館が設立され、リヨン美術館が所蔵していた自然史関連の作品が移された。1935年にはリヨン美術館に併設されていた美術学校(リヨン国立高等美術学校)が分離されて独立する。1921年には、リヨンの歴史に関する作品はすべてガダーニュ博物館(Musée Gadagne)に移された。

かたやリヨン美術館では、印象派の作品や、ピカソ(Picasso)やマティス(Matisse)とった近代絵画の巨匠の作品、オーギュスト・ロダンの彫刻作品などを購入し、近代美術部門を充実させていく。

 

1997年、ドゥリュバック夫人(Madame Delubac)が近代ならびに印象派絵画の個人コレクションをリヨン美術館に寄贈した。寄贈作品のなかにピカソの『海辺に座る女(Femme assise sur la plage)』(1937210日、リヨン美術館)が含まれていた。ピカソは1937年に「水浴」をテーマに3つの作品を制作するが、その一つをリヨン美術館が所蔵することになったのだ。地方美術館は個人コレクションの寄贈のおかげで所蔵品が拡大するケースが多い。

 

2007年、ルーヴル美術館と17のメセナの協賛により、古典派主義の画家ニコラ・プッサン(Nicolas Poussin)の名画『エジプト逃避(La Fuite en Egypte)』がリヨン美術館の絵画コレクションに加わった。プッサンの傑作をリヨンが所蔵することになり話題を呼んだことは記憶に新しい。

美術館を支えるためのメセナの役割は大きい。リヨン美術館はメセナのおかげで、ピエール・スーラージュ(Pierre Soulages)、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres)、ジャン・オノレ・フラゴナール(Jean Honoré Fragonard)などの作品を次々に購入した。こうして、リヨン美術館は作品ジャンルとコレクションを充実させ、ヨーロッパ有数の地方美術館の地位を築いているのだ。

 

現在、広さ7000m²の敷地に70の展示室が配置され、ルーヴル美術館に次ぐ規模を誇る。

古代エジプト・ギリシャの美術品、新古典主義やロマン主義の彫刻、中世から19世紀にいたる、イタリア、フランス、オランダ、フランドルの作品、リヨン派の作品、絹織物デザイナーのための「花のサロン」出展作品など、充実した作品を通じて、美術の歴史をコンパクトに学ぶことができる。

文・写真:マダムユキ


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