2020年11月19日木曜日の午前0時、ボージョレ・ヌーヴォーが解禁 !
ボージョレワインの醸造家たちいわく、2020年のボージョレワインは「究極のミレジム」とのこと。
新型コロナウイルスのパンデミックのなか、今年のぶどうの成長は異例づくし。
2020年のボージョレ地方のぶどうの育生を振り返ってみたい。
冬になるとぶどうは休眠期に入り、そして、気温が10度を超えるとぶどうが休眠から覚醒し、新芽が出始める。今年は、昨年末から年初にかけて暖冬だったため、ぶどうの休眠期間がとても短く、3月末頃に萌芽が始まった。早生種は霜害を受けやすいので心配されていたが、春は晴天が続き、とても穏やかで暖かく、乾燥した日が多かったこともあり、幸いにも霜害を受けることなく、ぶどうはすくすくと成長した。
フランス最初のロックダウンは3月中旬から5月上旬にかけて実施された。天気がとても良いのに外出が規制され、窓から鳥たちがのびのびと羽ばたいている青空を眺めては、「これからいったいどうなるんだろう」と不安な気持ちでいたことを思い出す。
ぶどうの開花は萌芽から70日前後に迎える。今年は異例の早さで、5月20日頃から開花が始まった。
6月に入ってから急に冷え込みはじめ、雨の日が続いた。ロックダウンが解除されたら雨降りの日が多くなったことを思い出す。「なんか皮肉だなあ~」とぶつぶつ言いながら、傘をさして外出したものだ。
7月は晴天に恵まれ、1964年以降3番目に乾燥した7月を記録した。
ぶどうが「色づく」ことをフランス語で「ヴェレゾン(Véraison)」というが、ヴェレゾンも例年より早く訪れ、7月18日頃から始まった。その後、「恵の雨」には恵まれず、乾燥が続いたのでぶどうの伸び悩みが懸念された。というのも、水分が不足するとぶどうは命を維持するために成長を停止させて、休眠状態に陥るからだ。
8月は猛暑日が続く。強い日差しでぶどう果実が焼けて褐変する「日焼け」という現象が発生した。
8月のバカンスシーズンを迎え、フランス政府が落ち込んだ経済の立て直しのために、「フランス国内を旅しよう」と国民に訴えていた。私も8月に休暇をとり、日本に帰省できなかったのでフランス国内を旅した。ワイナリーも訪問した。ぶどうが順調に実を熟し始め、微笑んだ。
ボージョレ地方では、8月20日から収穫が始まった。例年より1ヵ月近くも早い収穫だ。ぶどう生産者に「今年は収穫が早かったですね」と伺ってみると、「今年は雨量が少なかったから、畑の場所によってぶどうの成熟にバラツキがあってね、収穫のタイミングが難しかったなあ。しかも8月28日頃から気温が下がって、収穫を終えるのに1ヵ月ぐらいかかったよ」とのこと。ワイナリーによっては、収穫の開始は早かったけど終了は例年並みというところもあったようだ。
収穫期は季節労働者(アルバイト)を雇って大人数で集中的に行われる。今年はウイルス感染予防対策を講じなければならず、「マスク着用」はもちろんのこと、「収穫者同士の作業間隔を開ける」、「食事時間を分散させる」など、ワイナリーさんはかなり苦労されたようだ。みんなで和気あいあいと食事をするのが収穫期の楽しみの一つだが、今年は少人数で数回にわけての食事となった。食事係を担当するワイナリーの女性たちは「1日中、料理と配膳をしていたわよ」って、苦労話を語ってくれた。
さて、今年のぶどうの評価を伺うと、「ぶどうの実が総じて小粒でだったので生産量は平均を下回ったけど、質の面では申し分なく、バランスのとれた深みのある味わいに仕上がった」ようだ。実にたのしみだ。
待ちに待った今年のボージョレ・ヌーヴォー。早期収穫、早期醗酵、早期熟成、そして、早期発送と、早期づくし。実はコロナ禍の影響でロジスティック面がとても心配されていた。ボージョレのネゴシアンと醸造家が話し合い、新酒の瓶詰めや発送を例年よりも1週間早めて、10月5日から国内発送を開始した。海外への発送は、通常は解禁日の20日前(J-20)と決まっているが(昨年は10月31日に海外発送された)、今年は例外的に38日前(J-38)に行われた。ということで、日本にも無事にボージョレ・ヌーヴォーが到着したのでは!
さて、日本でもすっかりお馴染みのボージョレ・ヌーヴォー、豆知識としてポイントをまとめてみた。
【ボージョレ・ヌーヴォーってどういう意味?】
「ボージョレ・ヌーヴォー(Beaujolais Nouveau)」は、フランス語で「ボージョレワインの新酒」のこと。「ヌーヴォー(nouveau)」は、フランス語で「新しい」という意味だ。
【ボージョレ・ヌーヴォーの産地ってどこ?】
フランスのブルゴーニュ地方南部のボージョレ地区で造られている。ちょうどマコン(Mâcon)とリヨン(Lyon)の間に位置し、ソーヌ川に沿っておよそ55km縦長に広がる丘陵地帯がボージョレ地区だ。「小さなトスカーナ」とも呼ばれ、200~400mの小高い丘が連なり、起伏に富んだ美しい景色が楽しめる。
【ボージョレ・ヌーヴォーに解禁日があるの?】
法律大国フランスはボージョレ・ヌーヴォーの解禁日まで法律で定めているのだから驚きだ。
そもそも、誰でも好き勝手にワインを販売しないように、1951年、ボージョレ、コート・デュ・ローヌ、マコン、ブルゴーニュといったアペラシオンをもつワインは、その年に収穫したぶどうから造った新酒(プリムールワイン)は12月15日から販売が可能であるとして、発売日を法律で定めた。そしたらボージョレの醸造家たちは、「ちょっと待ってよ。新酒といっても、私たちの新酒は早造りで、他のワインとは違うんだから。12月15日に販売開始だなんて遅すぎるよ」ということで、政府と交渉して他のワインよりも1か月早く、11月13日に販売が可能となった。何でも訴えてみることが必要だ。このとき、ボージョレの新酒を「ボージョレ・ヌーヴォー」と呼び、アペラシオンを取得した。このように頑張ったものの、ボージョレ・ヌーヴォーは今日のような人気はまだなく、発売日は年によって変動していたようだ。
1964年、ジョルジュ・デュブッフ(Georges Dubœuf)さんがネゴシアンとして自らの会社をボージョレ地方に創立した。ジョルジュ・デュブッフさんは日本でボージョレ・ヌーヴォーを大々的に広めた立役者である。彼は、ボージョレ・ヌーヴォーの商品価値を高めるために品質向上に力を注ぎ、そして、ボージョレの醸造家やボージョレ出身の著名人たちと一丸となって、ボージョレ・ヌーヴォーの名を広めていくための活動を続けた。こうして、ボージョレ・ヌーヴォーの名が定着しはじめ、生産量も販売量も年々伸びていった。
1967年、ボージョレ・ヌーヴォーの販売開始日が11月15日に制定される。つまり、その日より前は販売禁止ということだ。「11月15日午前0時、ボージョレ・ヌーヴォー解禁」というキャッチフレーズが商業的ブームを呼ぶ。70年代からボージョレ・ヌーヴォーブームが本格化し、フランス国内のみならず、日本をはじめ海外でも人気を博し、国内外のメディアで大々的に取り上げられるようになった。人気が高まるにつれて、11月15日が日曜日にあたった場合、配送業、飲食店や小売店などが休業のため売れ行きに悪影響がでるという弊害が指摘されはじめた。解禁日が平日になるように政府との交渉が始まり、1985年に法律が改定され、11月第3木曜日がボージョレ・ヌーヴォーの解禁日となる。今年は2020年11月19日木曜日午前0時で、毎年解禁日は変動するのだ。
【ボージョレ・ヌーヴォーに種類はあるの?】
ボージョレと名乗れるワインは、AOC(原産地呼称統制)で定められた規定に準拠して造られていなければならない。具体的には、生産地域、ぶどう品種、最低アルコール度数、最大収穫量、栽培法、剪定法、醸造法、熟成法、試飲検査が規定されている。たとえばボージョレワインの赤であれば、ガメイ種、白であればシャルドネ種のぶどうのみ使用できる。ボージョレ・ヌーヴォーは、ボージョレ地域で栽培されたガメイ種のみを使用して、ヌーヴォー仕様で醸造された赤ワインということになるわけだ。
ボージョレのほかにボージョレ・ヴィラージュというアペラシオンがある。ボージョレの一部の村(38か村ある)がボージョレ・ヴィラージュを名乗ることができ、ボージョレよりも格が高いアペラシオンといえる。ボージョレ・ヴィラージュにもヌーヴォーワインがあり、「ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォー」というアペラシオンを取得している。
【ボージョレ・ヌーヴォーって他のワインと違うの?】
ボージョレ・ヌーヴォーは9月に収穫したぶどうを醸造して11月にはボトルに詰めて出荷するという短期間で造られるワインだ。そのため、他のワインとは異なるボージョレ・ヌーヴォー独特の製造方法が採用されている。「マセラシオン・カルボニック法(Macération carbonique)」と呼ばれている。通常の赤ワインはぶどうを破砕して醗酵させるのだが、ヌーヴォーの製造では、ぶどうを破砕、除梗せずに、房ごと醗酵タンクに入れて密閉する。タンクに入ったぶどうは、自らの重みで潰れていき、自然醗酵が始まる。タンク内で二酸化炭素が充満していく。二酸化炭素が充満すると果粒中の酵素によって細胞内醗酵を引き起こし、アルコールが生成される。こうして、果皮や種子からのタンニンの抽出が少なく、渋みがおさえられ、ガメイ種の美しい色合いと、甘くフルーティな香りが生まれやすくなる。マセラシオン・カルボニック法はとてもシンプルだが、ボージョレ・ヌーヴォーを効率的に造り出すための伝統的な製法なのだ。
【ボージョレ・ヌーヴォーに合う料理は?】
ぶどう品種のガメイは爽やかでとてもフルーティ。基本的には何でも合う。リヨン料理はボージョレワインと相性がよく、例えば、リヨンソーセージのブリオッシュ包み焼、テリーヌやシャルキュトリ(ハムやサラミなど)といった肉加工品、川マスのクネル(はんぺん風の魚のすり身のオーブン焼き)、リヨン風サラダ(サラダ菜、ポーチドエッグ、ベーコン、鳥肝、クルトンなど)。チキンソテーや仔牛のグリルもいいかも。餃子やシュウマイ、小籠包にも合いそうだ。生牡蠣に合わせる方もいる。チーズとの相性もバッチリ。山羊チーズは間違いない。クリーミーなサン・マルスランチーズやサン・フェリシアンチーズも抜群だ。
私は毎年きまって、リヨンのブション(大衆食堂)あるいはワインバーでボージョレ・ヌーヴォーを祝う。早くから予約しておかないと人気店はすぐに満席になる。ボージョレワインを愛飲するリヨン人(リヨネーズとリヨネ)にとって、ボージョレ・ヌーヴォー解禁は伝統行事のひとつなのだ。フランスでは「ボージョレ・ヌーヴォー到着(Beaujolais Nouveaux sont arrivés)がキャッチフレーズ!冬の本格的な到来を前に、家族、友達、恋人、同僚たちとテーブルを囲んで賑やかに祝うのが慣習となっている。
今年は残念ながらロックダウンのため自宅で祝うことにした。おつまみにリヨンのシャルキュトリーの老舗「SIBILIA」からハム・ソーセージ盛り合わせをお取り寄せ。爽やかな新酒は肉加工品と合うね~。今年はぶどうの完熟度が高く、黒果実系のアロマが際立ってた。早造りでも熟成期間が例年より少し長くなった分、濃厚さも感じられる。ガメイ種独特のエレガントな芳香が口全体に広がる。タンニンが少ないのですうっと喉を抜けるこの飲みやすさがやっぱりヌーヴォーの醍醐味だ。普通の赤ワインより少し冷やしても美味しい。
実は、こんなうんちくをみんなで言い合って飲むのが実に楽しい。昨年の味を思い出しながら、今年の出来具合と比較して、ああだ、こうだといって、わいわい飲むのだ。今年はそれができないのが残念でならない。しかし、ウイルスがぶどうを襲わなかったことに感謝、自然の恵みに感謝、ワイン造りという人間の英知に感謝、美味しく味わえる健康に感謝しよう。
未成年の飲酒は禁じられていることをお忘れなく。また、アルコール摂取量はほどほどに!
文・写真:マダムユキ(著作権保護から無断複写・複製は禁じられています)