パディラック洞窟の地底探検で千古の神秘を体験しよう

パディラック洞窟の地底探検で千古の神秘を体験しよう

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パディラック洞窟の地底探検で千古の神秘を体験しよう

フランスのリヨンを離れて、フランス南西部位置するオクシタニー地方のロット県にあるパディラック(Padirac)村を訪れた。トゥールーズから車で2時間(180km)、ボルドーから3時間(260km)、ドルドーニュ渓谷の小さな村に年間45万人が訪れるという大きな洞窟がある。ご存知だろうか。

パディラック村周辺は、コース(Causse)と呼ばれる石灰岩台地が密集する地域にあり、浸食により深い谷が刻まれ、カルスト地形が形成されている。そのカルスト台地に、直径35メートル、深さは最深部で103mという大きな穴が空いているのだ。『悪魔の穴』と呼ばれている。実は、その穴から地下へと続く洞窟があり、奥行がなんと42キロメートルにもおよび、そこに25キロメートルにわたって地下水脈が流れているという。巨大な地下空間である。

 

 

洞窟の歴史は1億7千万年前のジュラ紀に遡る。

ジュラ紀は、古生代、中生代、新生代と3つに区分される地質時代の中生代にあたり、原始的な鳥類の出現や恐竜が繁栄した時代だ。ちなみに、ジュラ紀という呼称は、フランス東部からスイス西部に広がるジュラ山脈に広範に分布する石灰岩層にちなんで名づけられたもの。

そんな遥か昔の話なのだが、現在のドルドーニュ渓谷一帯は海の底にあり、貝類やサンゴなどの海洋生物起源の石灰岩が大量に生成され、堆積されていった。

その後、ジュラ紀変動で地層が隆起し、第4紀(200万年前から100万年前)に入ると、雨水や地表水、地下水などによって、地表の水に溶解しやすい石灰岩が浸食され、地下水脈や鍾乳洞が発達する、いわゆる「カルスト地形」が形成されたというわけだ。

地下地形は、石灰岩の割れ目に沿って流れる地下水の作用で溶食が進み、洞窟空間をつくり、地下水中に溶解した石灰分が晶出して特異な沈殿物となって洞窟を装飾する。それが鍾乳洞とよばれるものだ。

パディラックで、地表の溶食が進み、洞窟の天井をなす岩層の一部が崩落し、ぽっかり大きな穴が空いた。数十万年前から数万年前頃と推定されるが、それが後に『悪魔の穴』と呼ばれ、住民たちから忌避されてきた。 

 

 

 

時は流れ、19世紀後半、弁護士を営んでいたエドゥアール=アルフレッド・マルテル(Edouard-Alfred MARTEL)によって、パディラック洞窟の地下内部の構造が明らかにされた。 

マルテルは、1866年に両親とピレネー山脈のガルガ洞窟を見学してから洞窟への関心を強め、ドイツ、オーストリア、イタリア、スロベニアなどの洞窟を訪ねた。1886年に弁護士になってからも、仕事の傍らで1年のうち2か月は洞窟探検の旅に出かけては、洞窟探検に情熱を注ぎ続けた。

1888年にオクシタニー地方ガール県で『ブラマビアウの深淵(Abîme de Bramabiau)』を発見し、続いてロゼール県で『ピンクの洞窟』と呼ばれる『ダージラン洞窟(Grotte de Dargilan)』を発見することになる。こうして、マルテルは、探検家としての道を歩み出すことを決心する。 

そして、1889年7月9日、マルテルは、パラディック村の『悪魔の穴』に侵入し、洞窟の内部調査を開始した。

はしごで54メートル地点まで降りて、そこから最深部の103メートル地点まで地底を下り、そこからさらに『クロコダイル』と名付けた舟で地下水脈を進み、1年後の1890年9月9日、洞窟の奥にエメラルドグリーンに輝く地底湖と鍾乳石で装飾された素晴らしい大空洞を見出したのだ。 

マルテルは、洞窟調査を開始した時から、この見事な洞窟を広く一般の人に公開したいという思いがあった。

所有権など様々な行政問題を解決したマルテルは、安全に洞窟内を見学できるように、洞窟内をロウソクで灯し、見学者用散歩道や地下河川を渡る船着場などを整備した。

マルテルの念願がかなって、1899年4月10日、パラディック洞窟が一般公開されることになった。 

 

 

現在、洞窟内2.2キロメートルにわたって日本語音声ガイドで見学できる。日本語が用意されているところがうれしい。

まずは、地上から鉄骨階段あるいはエレベーターで地下75メートルまで降りる。そこから、階段あるいはエレベーターで最深部103メートル地点まで降りて、地底探検の始まりを想起させる照明演出された薄暗い地下道(Galerie de la Source)を進むと、船着場に到着する。そこから、ガイド兼船頭の案内で洞窟内の地下水脈を小舟で移動する。ライトアップされた鍾乳石とエメラルドグリーンに輝く地下水面を鑑賞しながら、洞窟探検家になったような気分で地底体験を楽しめる。

地下河川(Rivière Plane)を進むと、『雨の湖(Lac de la Pluie)』と名付けられた地底湖に到着し、その奥に『グランドーム(Grand Dôme)』と呼ばれる大きな空洞が広がっている。舟からおりて、鍾乳石で形成された神秘的な地下空間を歩く。最初に登る階段は1889年にマルテルが架けたときから変わっていない。130年以上前のものだ。

 

 

1億7千万年の時を経て形成されたパディラック洞窟の地底。時の流れが止まったかのような地下空間で、千古の神秘が体験できる。

 

【パディラック洞窟(LE GOUFFRE DE PADIRAC)】

 

マダムユキより

文・写真:マダムユキ(著作権保護により無断複写・複製は禁じられています)

※当記事は『地球の歩き方リヨン特派員ブログ』から転載したものです

 

 

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